インドシナニュース

ベトナム:TPPにより厄介な「オランダ病」はもたらされるか?(後)

(前編より)

 

しかしこうしたベトナム経済に対する楽観的な見通しの一方で、経済的な幻想には落とし穴が伴う。ベトナムにおける脆弱な人権に関する歴史と、一旦産業が活性化するとさらに人権侵害がひどくなる可能性については十分に指摘されてきたが、ベトナム経済における最大の脅威はまだ明らかにされていない。それは「オランダ病」である。オランダ病はオランダがガス田を開発し始めた後の70年代後半にエコノミストによって作られた言葉で、ガス田開発によって国が豊かになる代わりに、オランダでは数千人が職を失い、製造業が駆逐された理由を説明しようとするものである。この匿名のエコノミストは、オランダの経済崩壊は、オイルがドルで価格設定されているため、外国通貨の急激な流入、自国通貨の需要増により通貨高がもたらされ、ガス以外の国内産業は国際市場において競争力を失ったためと説明した。

オランダ病は一般的に鉱業や石油など天然資源の輸出に頼る国々で起きるとされているが、アパレル産業も決して例外ではない。インドとバングラデシュの両国は、程度は違えど衣料品輸出の活況によってオランダ病となった例である。インドの場合は特に影響が大きく、ドルの流入によって主要輸出相手国通貨に対するルピーの価値が上昇、国の競争力は軒並み急激に低下し、このことにより2007年の1年間で少なくとも50万人の雇用が失われた。

そして、オランダ病はベトナム経済で次に起きる可能性がある。ベトナムでも既にTPPの通過に伴い、資金の大規模な流入に直面することが予想されている。オランダ病から経済を守るための最善の方法は、経済の多様性を健全なレベルに保つこと、つまりどんな製品でも生産する能力を身につけておくことである。ハーバード大学の経済多様性に関する指標によるとベトナム経済は、底なしの油田によってのみ成り立っている王国サウジアラビアの上に辛うじてランキングされている。既に200万人以上を雇用する好景気に沸くアパレル部門において、さらに数千人の雇用増が予想されており、ベトナムの経済の多様性は今後さらに縮小する可能性がある。

ベトナムは、既にオランダ病に直面した他の国々の対処法から学ぶべきである。例えばノルウェーでは、「年金基金」を設立し、賃金上昇や為替レートの上昇を制限することにより、石油ブームをきっかけとした負の影響を回避した。サウジアラビアでは今年初めから積極的な産業の多様化と民営化プログラムを開始することによって、ノルウェーのような解決策を探っている。サウジアラビアの政府系ファンドは、ほとんどのサウジ経済部門が進出しており、何百ものビジネスで180億ポンド以上の価値を有する英国から、副皇太子がシリコンバレーの投資家に入札を求めるため最近訪問した米国まで、外国人投資家の膨大なネットワークを駆使することにより、最終的な価値は2兆米ドルにまで達すると予想されている。

当然のことながらベトナムの政策立案者は南シナ海や自国のささいな権力闘争について気を取られてはいるものの、TPPに署名しさえすればハノイにミルクと蜂蜜の無限の川が流れ込むと思いこむべきではない。ベトナムが新たな収入を適切に管理してオランダ病を回避できた場合にのみ、そして米国の抵抗勢力を抑えてTPPを通過させることができた場合にのみ、この協定によってベトナムは21世紀アジアの新星の一つになることができるのである。


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最終更新:2016年07月26日

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