ベトナムビジネス体験記

第二十七回ベトナム人は逃げる

ホーチミン市からカンボジアに向かう国道22号線沿い、市の中心部から30kmほど離れた地域はクチ県と呼ばれる郊外地域がある。
ここには、ベトナム戦争当時南ベトナム解放戦線のゲリラ兵士たちが潜んで戦った、総長250kmにも及ぶ地下道が残っていて、今では観光客の人気のスポットなっている。
トンネルの入り口には、木々や草を被せて、パッと見では、わからないようになっている。トンネルはアリの巣構造で、しかも、3階建て、つまり、3層構造になっていて、内部には会議室や病院などもあるという複雑なものであった。
ゲリラ兵士たちは、昼間は地下道内に隠れて、米軍の隙を見ては、襲い掛かる。夜になると、何食わぬ顔で、田畑を耕し外に出る。食糧をそうやって自給自足するものだから、持久戦にも耐えられる。我慢強さはそれこそベトナム人の持ち味だ。
農民と思っていた人間が、突然に襲い掛かってくるものだから、米軍からすれば、神出鬼没の怖ろしい相手だったらしい。
敵が来れば逃げ、敵の隙をついて攻めるゲリラ戦は、長年中国という大国のそばにあって、支配されてきた小国ベトナムの人々の血の中に流れている戦法であろう。

問題あるときは、その場を避け、するりと躱していくのは、ビジネスの現場でもたびたび感じることである。とにかくリスクを抱えず、リスク・ヘッジをすることには長けており、ベトナム人の真骨頂と言えるかもしれない。
例えば、我々のような縫製に関わる工場でなくとも、工場というの須らく生産能力と受注量とのバランスを調整するのが、経営の一番の根幹であるが、これが簡単ではない。毎月、一定量の仕事を受注できるのが、もっとも好ましいのだが、とくに我々のような業界においては、この受注量を一定にするというのが実際問題、至難の業である。
自分の工場の生産能力というのは予想される受注の最少時期をもとに設計されるのが通常なので、受注量がそれを上回る分は何らかの方策を立て、処理することになる。自社の残業でカバーできる分であればいいが、それも超えると、余所の業者に助けを求めることになる。それで、縫製工場はどこも、いざとなったら仕事を頼める同業者との連携をとっていることがふつうである。
ベトナムでも、事情は同様で、ときに発注先から自社のキャパで間に合わないので、余所の工場へ下請けに出してもいいかと打診されることがある。欧米の顧客は基本的に生産工場までのこだわりがあまり強くないので、下請け工場にだすことは頻繁で容易だが、日本の顧客は原則としてそれを良しとしない。そこで、ベトナムの工場は顧客に打診する。最初は断っていても、スペースがどうしても取れない、納期が遅れるなどの理由を並べたてられて、押し切られるように、<もはや、やむなし>の判断をせざるを得ないケースも稀にある。その際、必ず下請け先を紹介し、見せてくれる。そうやって、顧客の合意を取り付けたうえで、下請けに出すのがベトナム流である。
だが、この裏側には彼ら特有の論理の罠が潜んでいる。すなわち、仮にその下請け工場で作った商品に問題が起こった場合でも、「あなたが合意した工場で作ったのですよ」という言い訳が待っているのだ。
この点は、窓口になる貿易公司が立ちはだかり、内幕を見せようとしない中国のやりかたとは対照的である。自らが主導権を持ち、リスクを取って、あくまで我流を押し通すのが、中国人のように思う。
また、日本人のような潔さとも、対極的である。玉砕戦法にも繋がる日本人の潔さも、ちょっと考えものかな、と思うようになったのは、ここベトナムに来てからのことである。
日本にも、「命あっての物種」という諺があるように、死んだらお仕舞いである。玉砕せずに逃げ回って、捲土重来を期すというのがベトナム流で、これがきっとアメリカ軍を辟易させた戦法なのである。

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というわけで、私自身もこの「アクセス」という誌上でペンを片手に編集スタッフのO氏と2年間以上に渡り、あるときは、印刷直前ギリギリに原稿を入れてみたり、また、あるときは、裏を掻いて、納期通り原稿を出してみたり、など、毎月、手を換え、品を換えして格闘してきたのであるが、ここベトナムにはさらに上をゆく戦法があることを思い出したところで、それを見倣い、一旦読者の皆様方とはお暇したい。

秋利美記雄

プロフィール:1966年生れ。山口県下関市出身。1995年よりベトナム在住、大手商社勤務を経て、独立、アパレル専門商社及びコンサルティング会社を設立。 Qara Qoromo LLC.社長、My Lang Consultant Co., Ltd.取締役。 ベトナム語他語学に精通、現地企業との交渉は自ら行う。ベトナム在住歴16年。 アパレル情報ウェブサイト"Apparel Resource in Indochina"(www.apparelresource.asia/)を主催。

連絡先Eメール:info@apparelresource.asia

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