ベトナムビジネス体験記

第二十六回ベトナムの世代間ギャップ

最近、私がこのベトナムで感じるのは、ベトナム人社会の中における各世代の考え方の違いである。このこと自体は、いつの時代でもも、どこの国でもあるのだろうが、とりわけ今のベトナムの世代間ギャップは大きいように思える。

たとえば、筆者は今年46歳であるが、同世代のベトナム人は、感覚的には、自分の親の世代の人たちに似ていると感じている。日本では第二次世界大戦、ベトナムではベトナム戦争の時代を経た世代というのは、どことなく似た印象があるのだろう。ともに幼少のころだろうが、生きるために、自分の嗅覚を頼りにしてきた世代、だから、成長しても、なかなか他人や他の権威に頼ろうとはしない姿勢が感じられる。生きるためには、頑固一徹であったせいであろう。

それからすると、自分に近い感覚を身に着けているのは、むしろ一回り下の世代くらいかもしれない。ベトナム戦争の終戦前後に生まれた世代が、感覚的には自分の世代に近いように思う。物心がついたころには、戦争の余波も徐々に消え、発展の兆しが見えてきたころに育った世代である。今の30代がこれにあたる。

高度経済成長の時代に育った筆者と背景を同じくするものがあるのかもしれない。

ひところ、ベトナムでは8Xという言葉が流行った。これは、80年代生まれの世代を意味する言葉で、この世代はこれまでの世代とまったく違った考え方を持つ世代という意味で、ずいぶんと新聞や雑誌の紙面を飾ったものだ。今や、この8X世代も社会に出て、その基礎を支える年代となっている。

私自身もこの8X世代には、当初、ずいぶんと戸惑った覚えがある。

これより年上の60年代生まれ、70年代生まれとは、まったく違った感覚を備え、異なった行動を伴う世代である。

たとえば、新入社員を募集をした際に、希望の給与を聞くと、10歳も20歳も年上の世代の応募者よりも希望の金額が多いと言うことは1回や2回ではなかった。彼らは素直に自分の希望する金額を何の衒いもなく口にできた。また、自分の経験を訊くと、どうみてもありえない経歴をこれまた何の衒いもなく並べて見せたりできるのだった。

私の世代の言葉でいえば「新人類」で、突然変異した人種である。

前の世代が、たとえば、外国や外国人に対して、ちょっと引け目やコンプレックスを感じていたのに対し、この世代ではこの感覚はずいぶんと薄まっている。この世代は物心ついたときには、外国や外国人が自然に自分の身近にあったからだろう。

縫製関連の仕事をしていると、ホーチミン市やハノイの中心では、こうした業種へもう若者は入ってこなくなった。地方に行って、初めて若い労働者を見かけるだけである。弊社でも、若返りを図らなければならないが、なかなかもってたいへんなことである。

ところで、私自身もこうした世代間の違いに苦労させられることも多いのだが、思うに、当のベトナム人自身のほうがわれわれ外国人より一層この問題に苦労しているように思う。

同じベトナム人であるのに、たとえば親子の関係であっても、私の感覚では、爺様、婆様と孫くらいに違っているのであるから。このギャップをどうやって埋めているのだろう? 疑問は尽きない。

きっと深い世代間の断絶に皆が悩んでいるように思える。

核家族化が急速に進んでいる都会の現状みると、ひょっとして、そんなことには悩まずに、ただ家族間の関係や世代間の繋がりを希薄化させていくだけなのかもしれない。

事実、このことを意識するようになって、事あるごとに、こうした問題をベトナム人に投げかけると、皆が皆、この世代間のギャップについて感じていることを口にするのである。

最近、30代くらいの若い経営者、起業家と話をする機会を持つことが多々あるのだが、彼らは憚ることなく、上の世代のことを「老害」のように表現する。たしかに、古い世代の経営者と話をしても、埒が開かないことも、若い世代の経営者は積極的に学び、良い考え方を採り入れようとする姿勢に満ちて、好感が持てることも多い。

だが、年配の世代が持っていた辛抱強さや粘り強さといった良さを今の若い世代は失いつつあることも確かだ。

古い権威を振りかざす年配の世代と、新しい時代への変革を促す若い世代の対立の構造は、ベトナムの現代に限ったことではないだろうが、わずか数十年の間に激動の変革を経験したこの国の社会のこの差異は格段と落差が大きく見える。

対立ではなく、古き良き伝統をうまく受け継ぎながら、新しい世代への交代を進めてほしいと願ってやまない。

秋利美記雄

プロフィール:1966年生れ。山口県下関市出身。1995年よりベトナム在住、大手商社勤務を経て、独立、アパレル専門商社及びコンサルティング会社を設立。 Qara Qoromo LLC.社長、My Lang Consultant Co., Ltd.取締役。 ベトナム語他語学に精通、現地企業との交渉は自ら行う。ベトナム在住歴16年。 アパレル情報ウェブサイト"Apparel Resource in Indochina"(www.apparelresource.asia/)を主催。

連絡先Eメール:info@apparelresource.asia

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