ベトナムビジネス体験記

第十回 南北異景

この冬はこれまでになく多くベトナム南北を往来した。すでに何度も行き来して、知ってはいるのだが、今年の北部の冬は例年に増して寒く、南北の気候の違いをとくに強く感じた。
北部の冬は10度以下の日も多く、寒さの厳しい時には日本の冬とさして変わらない感がある。それに対して、南部は年間を通じて20度以下になることはなく、いわゆる南国のイメージどおりである。
日本からの出張者の中にはこのあたりの事情を知らずに、ベトナムというと至極簡単に南国をイメージされる方が多いようである。冬でも、HCMCに来られれば、そうしたイメージを裏切ることはないが、ハノイに来ることになると、予想外の寒さに戸惑う方が多い。
また、雨季というと日本人は梅雨をイメージするのか、鬱陶しい季節と思いがちだが、南部の雨季はスコールが熱気を洗い流してくれるため、かえってしのぎやすい。それより乾季の終わりの雨の一切振らない時期のほうが余程しのぎづらい。

HCMCとハノイは陸路で1700km離れている。飛行機で移動する直線距離にしてみても1100km、大阪-上海の距離に匹敵する。
旧正月には、出稼ぎに出ている人たちの帰省でごったがえすが、人の流れははっきりしている。簡単にいうと、北部から南部に働きに出ている人が圧倒的に多い。
そのため、先の旧正月前に急遽北部のほうへ日本からの出張者があり、対応のためにHCMCからハノイ行きのフライトを予約したが、キャンセル待ちの挙句で容易ではなかった。一方、北部に出張させているスタッフが南に帰るチケットを取るのは朝飯前だった。
同様に、旧正月明けにHCMCからハノイ行きのチケットはたやすく取れたのだが、逆にハノイからHCMCに戻るときには仕事始めのラッシュと重なったため、ハノイ滞在を延期して、戻る日を遅らせなければならなかった。
たしかに、HCMCでは北部の人が集まって住んでいる地域がいくつもあり、そこで同郷の者が助け合いながら暮らしている。そうした中からカップルが生まれ、結婚する例も珍しくない。
ハノイではそうした南部人が集まっている地域があるとは聞いたことがない。とはいっても、北部でも時折南部の人が働いている場に出くわすこともあって、ずっとHCMCに住んでいる私にとっては、そうしたときは言葉も聞き取りやすいのでほっとする。

よく指摘されるように、南北では人の気質に違いがあり、誰もが興味を抱くところである。
私見だが、北部人は本音を口に出さなかったり、非常に持って回った言い方をしたりする一方、南部人は率直で、遠慮がなく、ずけずけと物を言うように思う。北部人はこつこつした仕事に向いていて、南部人は飽きっぽい。
私が携わっている縫製の仕事は南部人には基本的に向かないと感じる。だから、弊社では南部のメコンデルタ地域への展開はあまり考えておらず、中部や北部の工場開拓に力を入れている。
友達には鷹揚な南部人がいいが、仕事では信頼できる北部人のほうが頼もしいだろう。

こうした人柄の違いゆえ、仕事で問題が起こるとしても、南部と北部とでは原因が異なる。
ちょっと乱暴な言い方だが、たとえば、同じ納期遅れを例にとっても、北部人は初めからわかっていて問題を起こす確信犯的なところが多いように感じるが、南部人の納期遅れは楽観主義、細かな計算をしなかったことから発生するケースが多いように思われる。

南部人と北部人のやりとりは、これまた注意が必要なところで、交渉上手な北部人に南部人は言いくるめられて、あとから歯軋りするケースをよく目にする。それで、南部の人は北部の人を悪く言う。北部の人は南部の人を悪く言うことはしないが、それと、実際にどう思っているかは別の話だそうである。
弊社はHCMCの事務所から北部の工場へ連絡を取るケースが多々あるが、この際のやりとりは北部出身のスタッフを担当させて、同じ北部人同士でさせるほうがうまく行くようである。
歴史の本を紐解けば、ベトナム戦争時の南ベトナム政府の中枢は1954年のジュネーブ協定時に北から移住してきたクリスチャンの北部人が中心を占めていたとか。だから、構図は北と南の戦争だが、実際には北部人同士の戦いだったと言う。

秋利美記雄

プロフィール:1966年生れ。山口県下関市出身。1995年よりベトナム在住、大手商社勤務を経て、独立、アパレル専門商社及びコンサルティング会社を設立。 Qara Qoromo LLC.社長、My Lang Consultant Co., Ltd.取締役。 ベトナム語他語学に精通、現地企業との交渉は自ら行う。ベトナム在住歴16年。 アパレル情報ウェブサイト"Apparel Resource in Indochina"(www.apparelresource.asia/)を主催。

連絡先Eメール:info@apparelresource.asia

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