ベトナムビジネス体験記

第九回 彷徨うスタッフ

当地ベトナムも中国同様旧暦に従い、旧正月を盛大に祝う。同時に、旧正月はいろいろな面でみんなが心機一転する時期である。
ベトナム人のスタッフがこれまで勤めていた会社を辞め、新しい職場を探すのもこの時期が圧倒的である。

これまでの職場に不満があって、たとえば、給料が安い、条件が悪い、人間関係がうまくいかないなど転職理由が明確な場合ももちろんあるが、ただなんとなく気分一新したいというような理由も少なくないように感じられる。
旧正月を挟むこの時期にそれが顕著に顕われるのは中国もベトナムも同様なのだろう。

転職に際して、それまで培った経験を生かしたいのか、同業他社に売込みに来る例も多い。
たとえば、日本食レストランのスタッフが同業他店に転職する例は枚挙に暇がなく、当地に住む日本人であれば誰もが遭遇するこの種の転職の典型と言える。しかも、1度ならず2度、3度、新しい店ができるたびに渡り歩く猛者もいる。それで、初めて入ったレストランでいきなり名前を呼ばれてはっとすることも少なくない。
この日本食レストランのことは一例であって、他業種でも同業他社に売込みに来る例も少なくないようだ。
我々の世界でも、同業他社あるいは取引先に勤めていたスタッフが求人募集に応募に来るケースも珍しくなく、応募者に関する情報を得ようと当方から先方の会社に電話したり、あるいは、先方の取引先から当方に問合せがあったりする。
まだまだ日系社会は狭いので、レストラン同様、スタッフが転職すると、業界の中ではすぐに目に付いてしまう。
だが、これまでは日系企業の数も限られていたが、年々進出企業も増えてきたので、こうした事情も徐々に変わっていくのか、注目されるところではある。

ところで、一度辞めた会社に戻ってくるスタッフもいる。最初はびっくりしていたが、最近では聞き慣れた話となり、今では驚かなくなってしまった。
かく言う我が社にもこの種の例があるからだ。
当社では外注先の管理のために、スタッフを生産工場に派遣し、常時、仕事の成行、商品の品質をチェックする体制をとっている。外部に出ていると、他社との接触が多く、いろいろな事情に詳しくなる。また、事務所から離れているために目が届かなかったり、疎遠になりがちである。
当社スタッフだったLは客先の社長と懇意になり、ついにはその会社に引き抜かれた格好で退職した。
だが、その会社も3年後結果的には経営破綻し、彼は放り出される形となった。
ちょうど、そのころ、弊社では新規のプロジェクトがはじまっていて、キーとなる人材が必要だったところに、あるスタッフが、Lが失業中であるとの情報を持ってきて、再度会社に迎えようと進言してきた。
私も少し考えたが、結局、周囲の意見に従って、Lを再度迎え入れた。

以前にもこのコラムで書いたが、ベトナム人の社会が村社会で、「村人」が同じ村の中を彷徨っているだけなのだと受け取ってのことだ。
同じ村で暮らす「村人」なのだから、会社を離れたといっても、同じ村の衆の縁が切れたわけではなく、別の会社に移ろうが、引続き関係は維持していく。何かのきっかけさえあれば、同じ職場に復帰することも不自然ではなく、復帰する者の側、受け容れる者たちの側、双方にとってもタブーではないようだ。
あとは、主がそれを「村人」の気まぐれな散歩と捉えられるかどうかなのだろう。

秋利美記雄

プロフィール:1966年生れ。山口県下関市出身。1995年よりベトナム在住、大手商社勤務を経て、独立、アパレル専門商社及びコンサルティング会社を設立。 Qara Qoromo LLC.社長、My Lang Consultant Co., Ltd.取締役。 ベトナム語他語学に精通、現地企業との交渉は自ら行う。ベトナム在住歴16年。 アパレル情報ウェブサイト"Apparel Resource in Indochina"(www.apparelresource.asia/)を主催。

連絡先Eメール:info@apparelresource.asia

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