ベトナムビジネス体験記

第七回 ある韓国人社長のこと

我々アパレル生産の業界では、当地においては韓国人が非常に重要な位置を占めている。生地メーカーしかり、付属メーカーしかり、韓国の会社がないと出来ないことが多々ある。縫製品には2次加工がつきものだが、プリント、洗いの工場は、この国の南北問わず、韓国系が巾を利かせている。

北部Nam Dinhの大規模工業団地内にあるG社は、韓国人社長H氏が興した従業員300名程度の工場である。
Nam Dinhはベトナムの紡績業の発祥地で、まともなホテルもない田舎町ながら繊維関連のメーカーが軒を連ねる。
H氏は現在50代半ば、10年以上当地と関わっていて、5年ほど前に現在の地に工場を建てた。
多くの韓国系工場がそうだが、工場を建てると、その敷地の一角にスタッフの宿舎を用意し、そこに寝泊りして、仕事する。宿舎には家政婦をつけ、キムチをはじめとする韓国料理の作り方を教え、食事に不自由しない体制をとる。
彼も同様で、そのため、同社に行くと、お昼は彼の宿舎の食卓で韓国料理に舌鼓を打つことになる。

韓国系の会社では、韓国人スタッフが多かれ少なかれベトナム語を勉強していて、直接、現地スタッフに指図するのは珍しくない。H氏も10年以上いるため、英語だけでなく、ベトナム語にもかなり通じていて、仕事の指示を出したり、叱咤したり、ときにはスタッフと冗談を交わしたりとコミュニケーションは不自由ない。スタッフのほうも気軽にボスに話しかけている。

勉強熱心で、当地の事情によく通じていて、まじめだが、一方、非常に頑固な面も持つ。
同社に初めての仕事を出した時、ちょっととしたいざこざがあって、電話越しにこれでもかとばかり怒鳴り散らされ、罵倒された。だが、しばらくして思い直し反省したのか、彼から電話をかけてきて、今度は延々と謝罪の言葉を聞かされた。
納得できない仕様や指図があると、どこまでも執拗に変更を迫ってくる。こちらも一生懸命に説得を試みるが、なかなか折れてくれない。それも彼の一本気な性格ゆえなのか。

縫製業は所詮利益の薄い業種にて、自分以外に外国人スタッフを雇わないというのが彼の方針である。韓国人スタッフを雇うくらいなら、いい給料をあげて優秀なベトナム人スタッフを採ったほうがいいと言う。
家族を本国に残し、ベトナムの片田舎に独り暮らし、黙々と仕事する姿には頭が下がる思いだ。

Nam Dinhに来たときは、遠慮なくうちの工場に泊まりなよ、と言ってくれる彼の顔を見ていると、本当はやさしい人なんだなあとつくづく思う。

これまで5年前に購入した3haの工場用地には3000㎡の工場が1棟あるだけだったが、今年初めからの好況を見て、隣の空き地に同規模の第2工場を建て始めた。
「やっとチャンスが来たんだ。状況はけっして楽ではないが、今やるしかないよ」と彼は夢に思いを馳せている。

秋利美記雄

プロフィール:1966年生れ。山口県下関市出身。1995年よりベトナム在住、大手商社勤務を経て、独立、アパレル専門商社及びコンサルティング会社を設立。 Qara Qoromo LLC.社長、My Lang Consultant Co., Ltd.取締役。 ベトナム語他語学に精通、現地企業との交渉は自ら行う。ベトナム在住歴16年。 アパレル情報ウェブサイト"Apparel Resource in Indochina"(www.apparelresource.asia/)を主催。

連絡先Eメール:info@apparelresource.asia

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