ベトナムビジネス体験記

第四回 交渉の序盤戦

弊社の業務の一つに交渉サポートがあるが、この点からベトナム人を見てみると、交渉相手としてはなかなか手強い人たちである。
なにしろ歴史を振り返ってみても、ベトナム戦争時にもパリ和平交渉はじめ数々の交渉の機会を通じて、結果的に米国にも負けなかった国である。
彼らの交渉力の強さの一番の要素は、優れたストーリー構想力を背景にした交渉の主導権争いの強さにあると思う。
平たく言えば、先読みした上での先手必勝の交渉が彼らの信条だ。
話の進行の成り行きを常に冷静に観察し、不利な方向に向く前に軌道修正する。けして不利な話題には踏み込まない。
逆に日本人は、概して、この点についてはあまり意識的ではなく、話の方向性については相手の言いなりで、中身でなんとか説得、逆転しようとする傾向が強いように見える。
しかし、交渉時には話の枠組をリードするほうが断然有利だ。
だから、私が交渉に臨む際には話の頭出しの部分に時間をかける。いや、正確に言えば、時間がかかってしまうことが多々ある。この時点こそが交渉のポイントとなのだ。何気ない話題でも本題に繋がっていく場面では、イントロ部分をけして疎かにしてはいけない。この最初の鍔迫り合いがその後の話の成行きの分岐点となることも十分ありうるからだ。

新規の顧客の話で候補の工場に行くと、せっかく客を連れて行っても、あれが足りない、これが足りないと言って、せっかくの話も最初は断ってくる。たしかにベトナムは製品の原材料に乏しく、技術的にも未成熟なので、新しい話もすぐできる環境にないケースが多いのだが、そこで「では、こうしましょう」という積極的な提案になるのではなく、「できません」となってしまうことが大半だ。
だが、それはそのまま断っているのではなく、依頼主のほうを自分たちのスタンスに合わせるための一種の主導権争いと私は見ている。つまり、話は終わったのではなく、ここから始まるのだ。
まず、自分たちができる範囲を広げておいて、この範囲なら対応できますよ、それ以外はできませんと言う。実際には、もう少し広めの守備範囲なのだが、この遊びの部分を交渉の武器としている。
たとえば、納期を聞いても、無理な安請け合いはせず、むしろ長めのリードタイムを出してくる。それでも、なんとか喰らいついてくる客だけと交渉が始まるという具合だ。そうやって交渉の枠組を作っていく。そこへなんとかならないかと無理な相談を持ちかけると、彼らに有利な格好で交渉が始まることになる。
あるいは、かつて、逆に、断られたとあきらめて引き返した後に、「市内で一番おいしい日本食のレストランを教えてくれ」などと口実をつけて、話を繋ぎに来た取引先もあった。このケースでは、取引先の工場は仕事がほしくて仕方がなかったのに、高すぎる条件を出したため、こちらはあきらめざるをえないと判断した。ところが、こちらの対応を読み違えた取引先が慌てて事をとりなしにきたというわけである。こうなると、交渉はこちらに有利な形で進んでゆく。

ベトナム人の交渉上手は、役職についた立場の人だけでなく、一般の個人でも同様に言えると思う。
社内で個別にスタッフを呼んで、話を聞く際にも、こちらが出すテーマを彼らなりに吟味し、ヤバイと感じたら、まともに答えず、うまく誤魔化して、別の話題に持っていこうとする。あるいは、相手の話の筋道にそって質問に答えるのではなく、関係する事項を自分なりに話す姿勢を崩さない。
主題の設定、優先順位に異常なほど拘ってくるのが彼らの会話の特徴だ。何について話すのか、何を先に話し合うか、の段階で相手に譲らない。相手が出すテーマに素直に返したがらない。相手の土俵で戦うのは不利だと思っているようである。
この段階で何度も堂々巡りになるかもしれないが、自分のテーマに話を持ってくる必要がある。そうでないと、すべてが相手のペースで進んでしまう。
根負けせず、辛抱強く、はベトナム人との交渉時の基本と心得るべきだろう。

秋利美記雄

プロフィール:1966年生れ。山口県下関市出身。1995年よりベトナム在住、大手商社勤務を経て、独立、アパレル専門商社及びコンサルティング会社を設立。 Qara Qoromo LLC.社長、My Lang Consultant Co., Ltd.取締役。 ベトナム語他語学に精通、現地企業との交渉は自ら行う。ベトナム在住歴16年。 アパレル情報ウェブサイト"Apparel Resource in Indochina"(www.apparelresource.asia/)を主催。

連絡先Eメール:info@apparelresource.asia

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