ベトナムビジネス体験記

第三回 村社会のベトナム

ベトナムの社会は、これを一つの小さな村に喩えてみると、理解しやすいことがある。

狭い村では、誰それが何をしたといった情報はあっという間に村中に伝わってしまう。
そして、中には地獄耳の猛者もいる。

商社勤めの時代、上司の駐在員Aが既存の商売の生産拡大のため新規工場を探して、自ら地方にも出向いていたときのこと。
当時、同じ商売で取引のあった現地私企業の女社長はいわゆるやり手のの経営者だったが、彼女に情報通ぶりには驚かされた。
同種の商品を発注している他社の契約金額を探るなど朝飯前。
あるとき、用件あってAが女社長に会いに行くと開口一番「あなた、最近、北部のほうをずいぶん一生懸命回ってるらしいわね」と。
北部出身のこの女社長には駐在員Aの動きは手に取るように捉まれていたらしい。「うちのオーダー、よそに回す気じゃないでしょうね?」
その後、Aは中部地区の工場もあたりだしたのだが、ある日、はたまた件の女社長と出くわすと、彼女は「ダナンのB社長と業界のパーティーの席で会ったのだけど、あなたのこと聞かれたわよ、M社のAってどんな人かって。まじめな人よって答えておいたわ」と言って不敵な笑いを浮かべたとか。
Aは独りごちた。「俺は釈迦の掌から逃れられない孫悟空だな」

私自身、あちらこちらの会社を回るようになって久しいが、行く先々で現地の方からいろいろな情報をもらうし、こちらから出かけなくても、先方から相談と称して、「どこそこのお客が来たのだけど、どういうお客さんなの?」という<情報提供依頼>の問合せが舞い込んできたりする。
そんなとき、自分もこのベトナムの繊維業界村の一員になったのかなと思う。

「村人」たちはお互いの内情を明かしあうこともあるが、その典型的な例が給料である。
会社勤めするベトナム人たちは取引先に通いだし、少し親しくなると、最初にお互い探り合うのは給与額である。
ただ、彼らも「せーの」で一斉に金額を公開するのではもちろんなく、お互いに相手の様子を窺いながら、駆け引きしつつ、徐々に金額を公開してゆくようである。
その場合、金額の高い人が総じて簡単に金額をオープンにし、低い人は言いたがらなかったり、多めにサバを読んだりする。
給料の金額はお互いの関係や立場に少なからず影響を与える。自分と相手の給料の額でお互いの格付けが決まると言ってもいいのかもしれない。客の側や相手に対して指図を出したりする立場の人の給与額が低かったりすると、立場上、気まずい思いをするようで、その場合、相手には金額を明かさなかったり、出鱈目を言って誤魔化したりする場合もある。

給料やボーナス支給時に、従業員が同僚の支給明細書を借りてきて、抗議に来たという話を何度か聞き知っている。
そこで、査定の根拠を事細かに説明しても、なかなかうまくいかないようで、却ってこじれるばかりのようだ。
建前論で「会社と個々人の1対1の契約だから、他の人の支給額とは関係ない」とするほうがいいのだろうが、だとしても、実際には従業員はなかなか納得しないものである。
給料については、初めから公開された情報として考えるほうが現実的である。

秋利美記雄

プロフィール:1966年生れ。山口県下関市出身。1995年よりベトナム在住、大手商社勤務を経て、独立、アパレル専門商社及びコンサルティング会社を設立。 Qara Qoromo LLC.社長、My Lang Consultant Co., Ltd.取締役。 ベトナム語他語学に精通、現地企業との交渉は自ら行う。ベトナム在住歴16年。 アパレル情報ウェブサイト"Apparel Resource in Indochina"(www.apparelresource.asia/)を主催。

連絡先Eメール:info@apparelresource.asia

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