ベトナムビジネス体験記

第一回 ベトナムの会社組織論

ベトナムの会社には中間管理職が存在しない。
中間管理職のポスト自体はたしかにあるのだが、往々にして名目だけで、権限の委譲が行なわれていない。
言い方を換えると、トップが直接個々のスタッフと繋がっている、非常にフラットな組織だということが言える。

今からちょうど10年以上前のことになるが、当時、ベトナムで初めて本格的なスーツ工場を立ち上げるプロジェクトがあり、勤めていた商社の現場担当者として、取引先のN社へ日々足を運んだ。
N社はベトナムでも1,2を争う巨大な国営工場で、従業員総数は地方の工場まで合わせると、1万人を裕に超えていた。
毎日のように工場に通い、現場のスタッフから、工場長、技術担当者、計画部長、副社長、果ては、社長まで、新プロジェクトへの理解を求めて話し込みをする日々だった。
その際に、ベトナム企業の中間管理職の不在を強く感じさせられた。
N社側では、ベトナムで実質初めての、このプロジェクトの陣頭指揮を副社長が振るっていた。担当の私は、あるいは単独で、またあるいは担当部長の上司を伴い、その副社長と打合せするのだが、重要な打合せの最中でも、N社のスタッフは副社長の決裁を求めて、平然と会議中の部屋に入ってくる。
書類の束を携えてくるスタッフ、そして打合せを続けながらも、その書類にさっと目を通しつつ、次々とサインをしていく副社長。さらに、この光景にいらだちを隠せない上司。
中間の管理職を置き、ある程度の裁量権を委ねればいいのに、それすら与えていないのかと思った。きっとベトナムの中間管理職にも裁量権はあるのだろうが、その範囲が極めて小さいのだろう。勢い、会社のトップに立つ人物には、決裁案件が集中し、多忙を極める。
だが、それゆえに当地で取引する際に大事なのは、こうした実際に権限を持った人物まで早く辿りつくことである。
現場の担当者は権限なく、ただ連絡役を務めるに過ぎない。ゆえに、どんなに忙しかろうと決定権を持った、この副社長のような人と交渉しなければ事は進まない。


トップとのわずかな時間の面談が取引の突破口となったのは、アメリカ向けの輸出で会社が急成長した私企業M社との取引のケースだった。
HCMCに本社工場を持つ同社が中部地区で大型の新工場の操業をはじめたとき、私はこの新工場に何度も足を運び、結果的に日系企業としては同社と初めての本格的取引をはじめることになった。
前述のN社のような企業が大半の当地にあって、対照的に営業窓口の個人個人のスタッフが強い同社は、それまで日系企業が取組の提案をしてもなかなか話が進まなかった。あとでわかったことだが、日系各社から数々のアプローチを受けていた同社の営業スタッフたちは、要求レベルの高い日本向けオーダーは実入りが割りに合わないとして、ことごとく断っていたらしい。我々の場合、営業スタッフの手の及びにくい中部の新工場で任されていた副社長と直接話をしていたため、順調に話が進んでいたが、その後、営業部隊のハザードに遭い、一旦、暗礁に乗り上げていた。
しかし、ある日突然同社社長が我々のもとへ訪ねてきた。「日本向けのオーダーを受けたいのだが御社との話是非進ませてくれないか」
中部地区の工場で一度お目にかかっていた社長が、米国の景気停滞で新たな市場を求めて日本向けのオーダーを受けたいと思ったときに我々のことを思い出し、潰れかかっていた話を繋ぎに来てくれたのだった。

中間管理職のピラミッドを築き上げた日本の企業がフラットな組織を目指しているのに対し、ベトナムでは事情はまったく異なる。
当地の各企業は現地企業、外資企業を問わず、中間管理職の人材を見つけ出し、育成することに苦心している。
これが当地の企業の一つの大きな課題となっている。

秋利美記雄

プロフィール:1966年生れ。山口県下関市出身。1995年よりベトナム在住、大手商社勤務を経て、独立、アパレル専門商社及びコンサルティング会社を設立。 Qara Qoromo LLC.社長、My Lang Consultant Co., Ltd.取締役。 ベトナム語他語学に精通、現地企業との交渉は自ら行う。ベトナム在住歴16年。 アパレル情報ウェブサイト"Apparel Resource in Indochina"(www.apparelresource.asia/)を主催。

連絡先Eメール:info@apparelresource.asia

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